生成AIの進化に伴い、RAGやAIエージェントといった技術が注目されている。しかし、その本質は正しく理解されているだろうか。
「RAGはLLMに新しい知識を学習させる技術だ」
「AIエージェントは自ら知識を持ち、タスクを解決してくれる」
これらは、よくある誤解である。本稿では、「RAGは学習しない」「Agentは知識を持たない」という事実を起点に、これからのAIシステムが持つべき「知性」の核心、そのアーキテクチャについて解説する。
RAGは「学習」せず「参照」する
RAGは、外部のナレッジベースから関連情報を検索し、応答生成の際にLLMに「参照」させる技術である。これはLLMの内部パラメータを書き換える永続的な「学習」ではない。
例えるなら、試験で教科書の持ち込みを許可された学生のようなものである。その場で参照して回答はできるが、試験が終われば内容は忘れてしまう。つまり、RAGの価値は、LLMそのものではなく、参照先となるナレッジベースの品質と鮮度に大きく依存するのである。
AIエージェントは「知識」を持たず「実行」する
AIエージェントもまた、自らは知識を内包しない。その賢さの本質は、LLMの高度な推論能力を借りて、外部のツールやAPIをどう使うべきかを計画し、「実行」する能力にある。
知識を内部に固定化しないからこそ、新しいツールを追加するだけで柔軟に能力を拡張できるのがエージェントの強みである。彼らは「知識人」ではなく、多彩な道具を使いこなす「実行者」なのである。
AIの知性は「知識集積層」から生まれる
では、AIが扱うべき知識はどこに置くべきか。答えは、システム内に意図的に「知識集積層(Knowledge Reservoir)」を設けることである。
ここには、社内ドキュメント、顧客データベース、外部システムのAPIなど、AIが知的に振る舞うための全ての源泉を集約する。この知識の土台があって初めて、AIは真の価値を発揮する。
これからの知的AIシステムは、以下の構造を持つことになる。
知識集積層(データとツール) + RAG(検索) + Agent(実行) + LLM(推論) = 知的AIシステム
まとめ:重要なのはモデルからシステムへの視点転換
もはやLLM単体の性能だけを追い求める時代ではない。「RAGは学習しない」「Agentは知識を持たない」という本質を理解し、我々の視点を「モデル中心」から「システムアーキテクチャ中心」へと転換すべきである。
いかに質の高い知識集積層を設計し、それをRAGやAgentを通じて効果的に活用するか。そのアーキテクチャ設計能力こそが、真に価値あるAIシステムを創造するための鍵なのである。
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